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東京家庭裁判所 昭和48年(家イ)7031号 審判

国籍 フランス共和国 住所 東京都品川区

申立人 シヤルル・ローラン(仮名)

住所 東京都台東区

相手方 村上由美(仮名)

主文

申立人と相手方とは離婚する。

当事者間の長男イブ・ローラン(一九七一年一〇月一八日生)を監護すべき者を母である相手方と定める。

申立人は相手方に対し、イブ・ローランの養育費として一九七四年一月一日から同人が成人に達するまで一か月日本貨三万円ずつを当月中に送金して支払う(右は申立人が○○○○銀行東京支店に送金して相手方に受領させる)。

相手方は申立人の申出であるときは、相手方の監護のもとにあるイブ・ローランを同人の学業に支障のない時期と方法により申立人と面接交渉させることを許容しなければならない。

理由

申立人と相手方とは一九七〇年一月カナダのケベツクで知り合い、同年一一月相手方が日本に帰国し、同年一二月初め申立人も日本に来て一九七一年四月に婚約、同年五月二六日東京都渋谷区○○町○○○修道院で結婚式を挙げ、当時の申立人の住所であつた同都港区○○町の○○○○ロツジで同居、同年七月二〇日戸籍法に基づく婚姻の届出を経たものである。

申立人は○○大学医学部医用電子施設の研究に日本に来たものである、相手方は○○大学外国語学部フランス語科を卒業し、カナダのケベツクの○○○大学に仏文学勉強のため留学していたもので、帰国後は○○株式会社にフランス語教師として勤めていた。

夫婦の間には一九七一年一〇月一八日長男イブが生れたが、長男の生れる前ころ相手方のカナダに残した預金の管理について相互の理解の相異から紛議を生じたことがあり、更に八か月の早産であつた長男の健康上の問題について感情の行違いを生じ、相互に不信、失望感を懐くようになつた。そして同年一二月申立人はフランスへ一時帰国することとなり、前記住所を引き払い、相手方は長男とともに相手方の肩書住所の実家に残つた。一九七二年四月相手方は長男を実家の母に託して単身渡仏し、約三週間パリに滞在して申立人と共に過ごし、この間、夫婦の仲は小康を保つた。

申立人は一九七二年五月再び日本に来て相手方の実家に落ち付き、○○会社に技師として就職し、同年八月申立人の肩書住所のマンションを賃借して夫婦でこれに移り住んだ。しかし、その後、再び夫婦の間に性格の相違等から宥和し難い状態が生じ、一九七三年五月一九日相手方は荷物をまとめ、まず長男を実家の父に託したうえ、自らも申立人方を出て前記実家へ赴き、爾来、夫婦は別居を続けている。 もつとも双方が同じ会社に勤めているため、会社で顔を合わせることはあるが、別段の交渉もない。

申立人も相手方も離婚はやむをえないと考えており、相互に不信の感情は増大し、円満な夫婦関係を回復する見込みは失われている。相手方は長男を自ら監護養育する意向を有し、その能力もあり、申立人も原則的にこれに同意し、養育料を負担する用意のあること、長男を訪問する権利を保留したいこと、の希望を表明している。

以上の事実は申立人の外国人登録済証明書、相手方の戸籍抄本、イブ・ローランの外国人登録済証明書および出生証明書および申立人ならびに相手方の各審問の結果を総合してこれを認めることができる。

そこで本件の準拠法につき考えるに、当事者双方の婚姻時のフランス国籍法三七条により相手方は申立人と結婚式を挙げた時にフランス国籍を取得したものであり(相手方が同法三八条に基づきフランス国籍拒否の申告をしなかつたことは相手方審問の結果によつて認められる)、法令一六条によれば、離婚はその原因たる事実の発生した時における夫の本国法によることになつているから、本件では夫たる申立人の本国法たるフランス民法によることになる。フランス民法二三二条は「この法典二二九条、二三〇条および二三一条((注)妻の姦通、夫の姦通、有罪判決による離婚原因)に定める場合のほかは、裁判官は、夫婦の一方に対する他方の暴行、虐待または侮辱を理由としてでなければ、かつ、これらの行為が婚姻から生じる義務および債務の重大または反復された違反を構成して夫婦関係の維持を堪えがたくするときでなければ、夫婦の一方の請求に基づいて、離婚を言い渡すことができない。」としているが、前記相手方の申立人との別居は同法にいう申立人に対する侮辱にあたり、前認定の事実関係のもとでは夫婦関係の維持を堪え難くしたものというべきであるから、申立人については相手方に対する離婚原因が存在する。

よつて当裁判所は家事裁判法二四条に基づき調停委員[火禾]場準一、同佐藤光子の意見を聴き、当事者双方のため衡平に考慮し、一切の事情を観て、職権で、当事者双方の申立の趣旨に反しない限度で、事件の解決のため離婚および子の監護に必要な事項(後者については家事裁判法二四条二項の規定に拘わらず人事訴訟手続法一五条の趣旨に鑑み、離婚とともになす場合に限り、これを定めることができると解する)を定めることとし、主文のとおり審判する。

(家事裁判官 田中恒朗)

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